ワイヤーの熱膨張係数と温度補正の方法

Dendrometer MIJ-02 Rotary

ワイヤーは,、SUS304を使用しています。温度による伸縮が小さな素材、かつ腐蝕に強いという理由で選定しています。伸縮が少ないからと言 ってゼロではありません。ここではその収縮を抑える工夫と収縮の補正方法を示します。仕様に記載の通り、SUS304の熱膨張係数は以下の通りです。

熱膨張係数17.3×10^-6

この係数を使って、1mのワイヤーが温度によってどの程度膨張収縮するかを試算します。日本の場合、年間の温度の変化は約50度はあります からその数値を使って、

1000mm×50DEG×17.3×10^-6 =0.865mm =865μm

成長の遅い樹幹だとすれば2mm/年程度が成長速度として想定できます。従来、複数のメーカーからデンドロメーターが販売されていますが ワイヤーの温度補正まで考慮した、もしくは解説した市販品は見かけませんでした。この試算により、中緯度の範囲では無視できないことを 理解頂けると思います。ただし熱帯では年較差が小さいので、あまり考えなくても良いことが多いです。
この温度によるワイヤー部分の誤差を補正するには、まず、日射が当たっている箇所と日陰の箇所の温度差を減らす為に、アルミ薄付きの断 熱材アルミロールマット(多くのホームセンターに売ってます。)などを覆いとして装着してください。

幅50mm程度、素材にゆとりが有ればデ ンドロメータ本体丸ごと被うのも良いでしょう。空隙は有った方が通風に良いので、あまりきっちりと装着しない方が良い塩梅です。長さは 幹周に合わせてカットして使います。
断熱材の幹への固定は建築用のステープルや細い釘などを使うと良く、MAX
T3-13S(ステンレス製ステ ープル肩幅12mm、足長さ13mm)と、高儀GISUKE
パワーハンディタッカーPWHT-100の組み合わせなんかが、電気、圧縮空気など不要で、 かつ安価なほうなのでお奨めです。
次に、その断熱材の内部、ワイヤー近傍に温度センサーを設置してください。弊社製MIJ-LTP温度センサーなんかが使いやすさの点ではお奨 めですが、ロガーが対応するなら熱電対でも十分です。0.1度はどうでも良い用途なので。

こうすることでワイヤー全体の熱環境を平均化し、ワイヤーの温度変化を記録できます。設置時の温度を基準に上記の式を用いて補正しまし ょう。補正は設置時にメジャーで測った幹周に、ロガーで計測した変位を足した長さ、つまり全ワイヤー長さに対して行います。

Lc=L+(L+dL)×(Tm-Tr)×17.3×10^-6

Lc: 補正されたワイヤー長さmm
L:設置時の幹周mm
dL:ロガーに記録された変位mm
Tr:設置時温度DEG
Tm:ロガーに記録された温度DEG

計算例(L=1000,dL=1,Tm=33,Tr=23)
Lc=1000+(1000+1)×(33-23)×17.3×10^-6 =1000.173mm

計算はロガーの記録値が0.1μmが有効なので、その範囲で実施します。MIJ-01データロガーなどの演算機能が付帯したロガーを使う場合であ っても、補正はエクセルなどで手計算した方がよいでしょう。デンドロメーターと温度センサーのいずれかにトラブルが生じても、少なくと もどれかのデータが残る工夫、とにかく生データを保持しておくということはいかなる場合も肝要だからです。

<得られたデータの解析の方向性>
デンドロメータで計測するパラメータは植物の成長の変位でしかありません。他のパラメータとの相関を検証することが多いという理由から この変位を直接的に1つのパラメータとして扱うことは少ないです。前項で計算したように変位の絶対値ではなく、幹周の成長速度として扱 う事が多いです。そのため、メジャーでデフォルトの幹周を計測することが大事であり、その値は温度補正にも使いますし、成長速度を求め る際にも使います。デフォルトが1000mmだったとして、前項のLcが1000.173mm、期間が1年とすれば、成長速度は (1000.173-1000)/1000*100=0.01732%/年となります。もちろん幹周ではなく体積成長速度で評価する事もあり、その辺は目的とセンスで決定してください。