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蒸散測定だけで十分という場合は、こちらのAP4がお奨めです。

ADCです。何を今更という機種に思える方(特に長年光合成を計っている方々)も多いでしょうが、他機種を長らく扱ってきた経験から、チャンピオンクラスの性能を維持するのは、それなりに手間がかかる。そして手間を惜しむとひどく調子が悪くなってしまう。と、このように光合成蒸散測定器に限定しては、言い切ってしまうことが出来ます。そこで、ADCを見直してみることにしました。(自分で作れと言う意見はひとまず置いておきます。)


ADC LCpro+ 環境制御機能付屋外携帯型光合成蒸散測定装置
まずはADC LCpro+の細くて長い歴史から、1983年LCA-2つまり初期モデルがデビュー。屋外で使える光合成測定装置としては選択肢がなかった時代です。1987年LCA-3、1993年LCA-4が順次デビューしています。ここまでは日本では島津製作所さんが取り扱っていましたから、ADC社製品とは思ってないユーザーもいらっしゃいます。次に最新鋭のLCpro+の写真を見てみましょう。↓ダサいですね。現物の印象はもっとダサいです。ただし、右の写真で解りますように首からかけて持ち運んでいます。他機種に慣れている我々としては正直あり得ません。重量は4.4kgなんです。その半分以上が鉛蓄バッテリーの重量です。これは他機種と比較するとすばらしい利点です。では次にスペックを見てみましょう。分解能が1ppm、この時点で「ダメ」と言う方も多いでしょう。精度が書かれていませんが、メーカーが公表しないスペックは我々が公表するわけにも行きません。ただ、使ってみた上での再現性としての精度、ノイズレベルとしての精度という意味で後述します。


pdfカタログ
全般仕様
CO2測定方式 IRGA(非分散赤外光ガス分析計)
H2O測定方式 容量式半導体センサーチップ
CO2測定範囲/分解能 0〜2,000 ppm / 1 ppm
H2O測定範囲/分解能 0〜75 mbar / 0.1 mbar
チャンバー温度測定範囲 0〜50℃
葉温度測定範囲 0〜50℃
ガス流量設定範囲 100〜500cc/min
環境制御機能仕様
制御シーケンス ユーザーにより設定可能
CO2濃度設定範囲 0〜2,000 ppm / 1 ppmステップ
H2O濃度設定範囲 0〜75 mbar / 0.1 mbarステップ(ただし、雰囲気湿度の範囲)
チャンバー温度設定範囲 外気温度±10℃
光環境設定範囲 0〜2,000μmol/m2/s
その他仕様
ディスプレイ 240×64ドットLCD
データ容量 256KB 2700データセット記憶可能
シリアル出力 RS232C経由でテキストデータ転送
アナログ出力 0〜5VDC
内蔵バッテリー 12V-6.8A鉛蓄バッテリー 最長16時間稼働
仕用環境温度 5〜45℃
本体寸法・重量 23×11×17cm 4.4Kg
インプレッション
 まずは使用感ですが、暖機運転が早い。冬場でも5分待たなくても動いてしまいます。3分程度でした。他機種では内蔵電池が切れるまで暖機運転に時間を要する場合もあり、この場合自動車用バッテリーを接続して使用しますから、それに比較して実用的です。チャンバーヘッドのリーフクリップ部分、つまり先端の挟む部分の設計は、もちろんビレットパーツと呼ばれるフライス削り出しなのですが、この部品類が見た目より薄くなっています。この点はPP Systems社のサイラスと似た作りですが、実はサイラスの方が後出し設計です。この必要最小限の薄さが温度コントロールにおいてはキモの部分で、熱容量が小さいと温度コントロールが早いのです。ペルチェ素子を使った温度調節ではペルチェ自身の熱移動能力は大きさが同じであれば似たり寄ったりでして、そうすると対象物の熱容量次第で温度の変動速度が決まります。温度安定性という観点からは熱容量が大きい方が良いでしょうけど、0.1℃の安定性を求めるわけではないので、この程度で十分ですね。ペルチェは上記写真のように下顎の黒い部分に1つ収まってます。高級品では左右に2個ついてますが、逆に2個必要だったと解釈するのが正解でしょう。消費電力も上がりますし、重量も嵩みます。F14という可変翼にしたかったが為に重量級になってしまった戦闘機にタービンを2発積んで鈍重な運動性能を解決してしまう設計思想と共通するかも知れません。

 環境制御機能、これは現在では必要不可欠な機能でしょう。屋内で光合成の研究を行う場合には、別途光源、温度湿度のコントロールなど本体にその機能を求めなくても外部からコントロールすればそれで済む場合もありますが、屋外で測定する事が前提とすれば、植物は季節、標高、天候、時間など様々に相違もしくは変動する条件下に置かれていますから光合成速度や蒸散速度を測定する場合には、それらの環境条件が大きく異なる測定値をえいやっと同じ座標に置いて、解析・評価する事は無理です。LCpro+ではチャンバー内部の光、CO2濃度、H2O濃度、温度のコントロールが出来ます。元々、光以外は最初からコントロールできるような初期設計を行っているのですが、光源だけは後設計で、「後付け」という雰囲気たっぷりのつまり見た目が悪いLED光源は少し気になりました。しかし、これはチャンバーヘッドを交換してみると良い面に気が付きます。現場に工具を持ち込ませない工夫の方が際だつのです。チャンバーの交換は、なんとコインを使います。日本では10円玉です。これ1枚持っていればLED光源からチャンバーヘッドから交換が出来てしまいました。少ないながらもOリングが存在しますからその紛失だけは気を付けなければなりませんが、今回、広葉チャンバーと細葉チャンバーを交換してみて、その所要時間は5分かかりませんでした。針葉樹、アラビ、土壌呼吸の各チャンバーの交換は未確認ですが、ベースは共通しているので似たような物でしょう。ただ、現場でチャンバーを変える必要がない場合も確かに一般的です。この設計を喜ぶ必要はないのかも知れません。

 IRGAについて、LCpro+に内蔵するIRGA(CO2分析計)は心配してしまうほど小さな物が入ってます。セルボリュームが小さいことは応答速度の面から見ると良いことなんですが、気になるのは性能です。光源→セル→赤外線フィルタ(お決まりの4.6μmです)→ディテクタという構成です。チョッパーディスクが入っていないので、リファレンス波長は見ていません。サンプル波長のみです。この構成ではその性能は普通に考えれば10ppm程度のノイズレベルは出るでしょうか。実はココにはADCのトリックが入っています。IRGAの性能が良くなくても、事実上良くしてしまうトリックです。単独据え置き型のCO2分析計をお使いの方は良く知っていると思いますが、高級品と低級品の比較を行う際、例えば1日連続してデータを取って、そのふらつき具合をノイズレベルとして表現し、機器の評価をするのですが、温度、気圧、ガスの脈動など変動要因はいくらでもあり、それらを除いても機器固有の性能の善し悪しは正直、大きく出ます。ただし、キャリブレーションを行った直後数分間ははどのような機器も同じ値を示すのです。それがたとえ300万円の分析計であっても、4万円の分析計であってもです。(分解能は性能とは別です。仕様です。)つまり、キャリブレーションの後で、数分間のデータは、キャリブレーション時と条件や状態がほぼ同じと見なせるるわけです。ADCの正直大したこと無いIRGAを使う上で、設計者はその点を良く熟知していると思います。約20秒サイクルでソーダライムを使って現場外気から製造したゼロガス→それとCO2ボンベとミックスして製造したCO2リファレンスガス→再度ゼロガス→サンプルガス(これはチャンバー内部の空気の事。)の順番にひたすら交互に流し続けるのです。このサイクルはキャリブレーションと計測が一緒くたになった不思議な使用方法ではありますが、海洋など過酷な環境ではよくやる手段です。計測をスムーズに行う為にはサイクルを短くしたいわけで、その為には小さなボリュームのセルをチャンバーになるべく近くに配置する必要があったわけですね。結果として高性能なIRGAを搭載しないというメリットを得ています。低消費電力、動く部品がないので長期耐久性を確保、つまり壊れにくい仕様になり得ているわけです。長期ドリフトも測定の度にキャリブレーションする事で回避できると言った具合です。最も気になる実際の、かつ、オーバーオールでのノイズレベルですが、デモ品を見ての評価としては±3ppmというところです。これを悪いと見なすか、十分と見なすかは用途によって違いますが、0.2ppmの精度と公表されている高級品は数ヶ月で調子が出なくなり、±10ppmを越えるケースも普通であることを考えると、上出来でしょうと思ってしまいます。なお、今回使ったデモ器は相当に年季が入っており、大丈夫かなあと思わせる外観でしたので、新品を使ったインプレはまた後日になります。

 測定について、暖機が終わるその目安はディスプレイに表示される数値を確認する必要があります。電源投入後、何も挟まないでチャンバーを閉じて2分程度待ちますと、CO2ref(リファレンス濃度)とCO2an(サンプルガス)の値が近づいてきてやがて一致します。それで暖機は終了。次にサンプルを挟んでまた2分程度待ちます。チャンバーに付いている記録ボタンを押せば計測終了、というのが基本的な流れです。
 データ転送について、これが問題です。今時珍しくGUIじゃあ無いんです。ハイパーターミナルです。設定条件は以下の通り。イギリス人はわからんです。
・COM1ダイレクト
・ビット/秒19200、
・データビット 8
・パリティ なし
・ストップビット 1
・フロー制御 xon/xoff
以上、簡単ながらADC LCpro+のインプレッションでした。総合的に見て、弊社としてはこれは使えると判断しています。屋内で微少な変化を捕らえる用途には高級品のしかも完調なものを使用すべきです。あまりお奨めできません。その一方で、屋外でヘビーに使い倒す方には特にお奨めできます。高級品の場合、車検のように年2回は必要になるオーバーホールが不要なだけでも良いかと。今回は情報が少なすぎるLCpro+だったので、紹介がてら評論してみましたが、作るのに比べるととても簡単です。口だけって言われぬように精進いたします。

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