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初歩の二酸化炭素計測法

1. はじめに
 二酸化炭素やフロン等は人間の感覚器による認識が難しく、また、直接生命に被害を与えることもないので問題意識を持ちにくいものです。分析計を使って指示を見ることで、初めて問題意識を実感することになります。

 温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、水蒸気など)による地球温暖化が問題提起され、それが浸透し、ようやく最近になって、政治の分野では炭酸ガス排出規制の進展が、研究分野では二酸化炭素の吸収方法、計測手法、海洋へのフラックス、植生へのフラックスなどが盛んに執り行われ始めました。

 ここでは、大気中の二酸化炭素の計り方と溶液中に溶けている二酸化炭素の計り方について述べていきます。なお、以下の文中の”二酸化炭素”という単語をメタン、一酸化炭素などと置き換えれば、それらの成分も基本的に同じ手法で計測できるはずです。

 著者自身、大気と海洋のCO2を計測することになったばかりの頃、一体何から手を付けたらよいのか途方に暮れた経験があります。というのもCO2の計り方などどんな本にも載っていないから仕方がありません。基本的なことが知りたいのに論文には基本的な事は書かれていない。その世界での常識などわざわざ書く必要もないのです。さらに所属する研究機関ではガスを扱った経験がないとなれば全くのお手上げでした。
 
 これからこの分野の研究や観測を始める方々にとっては、機器の選択のような基本的な部分に意外と時間を食うものです。また、良くわからない場合、高けりゃいいやという判断になってしまいがちです。そんな方々に、何か参考になる事が有れば幸いです。


2. NDIRについて
 大気中のCO2濃度の検出にはNDIR(1.2.)、固体電解質センサー、光音響方式(PAS : PhotoAcoustic Spectroscopy )などの方式が挙げられますが、一般的にNDIR(Non Dispersive Infrared Gas Anaryzer)という分析計を用います。その理由を推測すると、

1. 操作が比較的簡単、
2. 校正作業以外に保守整備がほとんど必要ない、
3. 価格帯が非常に広く(8〜400万円)要求される精度に応じて選ぶことができる、
4. 原理的には古いので、最近のNDIRは安定して動作する、

と言ったところでしょうか。
 原理を詳細に解説すると、分子の回転運動や振動とかややこしい事が出てきますので、ここでは簡単な説明に留めます。例としてCO2分子の場合、波長4.26ミクロンの赤外線を選択的に吸収する性質を持っています。CO2分子が高濃度で存在するとより強く吸収する事になります。この性質を利用したのがNDIRです。具体的には赤外光源と光センサー素子を両端に固定した筒(セル)の中に測定したい気体を流すという方法です。低濃度では入射光の減衰が少なく、高濃度では減衰が大きいということになります。

図1 NDIRの測定原理の図

 同じNDIR方式の分析計でも、光源やセンサー素子のドリフト対策や、素子感度を上げるための工夫(ペルチェ冷却)、差分式(リファレンスセルの有無)にするかしないかなどの相違点があり、分析精度や再現性を高めた機器はそれなりの価格にならざるを得ないようです。また、最近では図にあるようなセルを持たない、オープンパス方式のNDIRも開発販売されています。


3. 校正について
 校正(Calibration)とは、分析計の基準値を得るために行う作業の事を言います。
2.の説明のように入射光の減衰の変動そのものは校正なしでも得られますが、絶対値が判らなければ何の指標も得られません。(PH計を使ったことのある人ならすぐに判ると思います。)いくら高精度な分析計を用いても、校正に用いる標準ガスの精度が悪いとトータルで良い精度が得られないことになります。

 校正ガスは通常分析計メーカーや販売店は取り扱って居らず、ガス製造業者1, ガス製造業者2に注文生産を依頼することで入手するのですが、納期は長いです。一般精度のN2+CO2ガスの場合約1〜1.5カ月、高精度のAir+CO2ガスの場合2〜3カ月を要するのが現状ですから、観測や分析を急ぐには先に入手しておかなくてはいけません。またガス製造業者が保証する精度は最高でも1ppmですから、それ以上の精度が必要なときには国立の研究機関に持ち込んで分析を御願いするしかありません(この場合0.01ppmの精度まで分析していただけます。)が、ここまでは普通はやれません。高精度なNDIRでは精度が0.1ppmにもなりますが、現実に入手できる校正ガスの精度を考えるとオーバースペックということになります(再現性、分解能を考えない場合)。

 標準ガスの取扱いで注意することは、その使用期間です。長時間経過すると各種ガス分子はボンベ内壁に吸着し、結果的に濃度変動を起こします。この現象を少なくするために高精度のAir+CO2ガスの場合、製造時にボンベ内壁にエイジングと呼ばれる処理を行い、またボンベの素材にも気を配りアルミニウムで作られています。それでも1年以上経過すると1ppmの変動が生じる可能性が残りますから、校正ガスの製造・分析後はなるべく早い期間に観測に取りかかれるよう計画を立てましょう。
 
 校正ガスを注文するときには濃度指定を行いますが、大気を計る場合で、かつ街中などの特殊な環境を除いては、340〜400ppmの範囲でしか変動しませんので、通常はこの範囲内での濃度指定を行ないます。機器の直線性を考慮すると、計測レンジに校正レンジを合わせることは、精度の向上になるからです。
 海洋を計測する場合、200〜600ppmの範囲で変動します。プランクトンが多そうな沿岸海洋を計測するときは日変動が大きく、遠洋を計測するときは比較的その変動幅が小さくなるようです。河川を計るときはもっと注意が必要で、1000ppmを越えることもあるようです。


4. サンプルガスの除湿法
 NDIRでCO2を検出するとき問題になるのはサンプルガス(計測したいガスのこと)に含まれる水蒸気の存在です。。水蒸気もCO2同様赤外線を吸収する性質を持ち、その吸収波長はCO2と重なっています。そこでこの影響を除去するためにサンプルガスの除湿を行ないます。除湿といえばすぐ頭に浮かぶ物質はシリカゲル(お菓子に入っている吸着剤)ですが、これを用いてはいけません。シリカゲルはCO2を吸着してしまいます。

 そこで過塩素酸マグネシウム(Mg(CLO4)2)を用います。アクリルを加工して両端にフランジのついた円筒を製作し、その中に粒の大きめの過塩素酸マグネシウムを入れ、両端にはアクリル綿などを詰め込んで完成です(買う気がなくなるくらい高いので自作しましょう)。内径20mm長さ150mm程度の容積のものにサンプルガス流量が200ml/min、湿度100% (at 20 ℃)のガスを流通させた場合、約24時間の除湿が可能です。この除湿法が最もポピュラーで簡単でしょう。

 人手の少ない観測のときは除湿剤の交換を頻繁に行えない場合があります。このような場合、少流量ガス用の電子除湿器や半透膜チューブ式除湿器(Membrene dryer)を前段に用いると良いです。どちらも完全除湿には不向きですが、長期連続運転する場合には有効です。これらを併用して除湿することで後段に取り付けている除湿剤(過塩素酸マグネシウム)の交換周期を経験上1ヶ月以上に延長することができます。ただし、電子除湿器はペルチェ素子を使っていますから消費電力が数百ワットと大きいので電力に制限がある場合は適しません。また半透膜チューブ式除湿器は1kgf/cm2程度の加圧が必要なのでIN側にポンプ、OUT側にバルブが必要になります。

 さらに半透膜外側には乾燥したパージガスを流通させることが必要です。パージガスは腐食性が無く乾燥してさえいればよいので、ボンベ封入の窒素ガスなどが良く用いられていますが、シリカゲルで大気を乾燥させたものを使うのも一つの手です。

 半透膜式除湿器では内外の水蒸気濃度差と圧力差が水蒸気を移動させる駆動力になります。配管内での凝結を避けたいときなど、どうしてもサンプルガスを加圧したくない場合にはパージガスを減圧する方法もあります。この方法はやってみましたが、除湿能力は問題有りませんでした。ただし、こだわりすぎな面もあるので、著者以外に採用しているのを見たことはありません。

追記(2000年4月5日):米国 Perma Pure 社がこの方式を使っていました。さすが専門メーカーです。

図2 半透膜式除湿器の配管


5. 配管と接続について
 除湿器や分析計を接続するとき用いるチューブには適した材料、サイズを選定する必要があります。材料は焼きなまし銅、SUS(ステンレス)が吸着が少なく適していると言われています。

 SUSは曲げにはベンダー、バリ取りにはSUS用リーマ、切断には電気駆動のチューブカッター(手動でもなんとかなりますが、根性がいります。)が必要で他に比べると加工性は良くないですが、腐食が少なく、強固なので分析システム構築後、改造を施す余地のない場所や動かさない場所に適しています。銅はハンドツールで加工できる程加工性が良い反面、腐食が早いのと度重なる曲げによる金属疲労により漏れが生じます。

 サイズ(径)は大きすぎると配管内容積によるシステムの応答速度に影響し、また小さすぎるとつまりの危険性があります。良く用いられる径は1/8インチや1/4インチです。他機関との互換性も考慮して外径1/8インチ(3.2mm)が最適です。(部品が入手できない観測現場では互換性により助けられる事があります。)

 機器とパイプの接続にはAeroquip, Swagelok,Fujikinといったメーカーのユニオンが主流です。ポンプ、電磁バルブ、除湿器、減圧弁、流量計、圧力計などほとんどの機器が数百ml/min程度の流量規格のときRc1/4やRc1/8の雌テーパーネジなので、ユニオンの機器接続側は雄テーパーネジ、反対側はチューブユニオンのものを選定します。
 チューブユニオンにはフェラルと呼ばれる金属シールが付いていますが、これは再使用できません。観測現場では急きょ接続を変更することもあるのでスペアを数十個準備しておいた方がよいでしょう。ユニオンは締めたり緩めたりを繰り返す部品なのでSUS製が望ましいですが、フェラルはチューブの材質にあわせる必要があります。SUSチューブの場合SUS製のフェラル、銅チューブの場合真鍮製のフェラルなどおおよそその堅さにあわせると良いようです。

追記2002年5月10日
テフロンチューブの場合はテフロン製のフェラルが向きますが、真鍮でも問題ないことを確認しています。
 
 と、ここまで書いていながら、実際に著者がどのような配管にしているかというと、銅パイプもSUSパイプもSwagelokも使うのを辞めました。面倒になったのです。PISCOという日本の会社がありますが、そこが製造販売しているユニオンやチューブが取扱のしやすさ、価格の安さ、納期の迅速さ、レパートリーの広さなどどれをとっても遙かに優れています。理化学機器の世界では価格表記されていないカタログと言うものが何故か常識になっていますが、PISCOはおそらく産業機器の世界で重宝されているらしく、明確に価格表記しています。

追記2002年5月10日
渦相関のシステムの場合、配管径が1/4インチから10ミリと大きいです。この場合、PISCOでは漏れが大きくなりますので、使用しないようにしましょう。

 実際に分析計の配管に使用した印象は、配管のつなぎ換えも工具一つ必要なく、価格が安いのでスペアを豊富に所持できます。ナイロンチューブに至っては色まで選べますので、配管の整理に役立ちそうです。これを使い出すともうかつてのスパナが必要なユニオンや、パイプの切断に工具や腕力が必要な世界には戻れません。ただし、0.01 ppmの変動を正確に分析するようなユーザーにとっては、材料面ではなにかしらの問題があるかもしれません。

 追記:熱帯魚飼育の世界でもPISCOが重宝されているようです。水草飼育のために純炭酸を溶かし込むようで、その配管に使われていたりします。価格は何故か2.5〜3倍で売られていて、かっこいいパッケージだけ別メーカーが作っている不思議な売られ方でした。
(※ 著者とPISCOとは何の関わりもありません。ここで述べたのは1ユーザーとしての勝手な意見です。)


6. 電磁バルブについて
 自動校正・自動計測を考慮した配管を設計すると配管同士の交差点や任意に切替えたい場所が出てきます。その際に便利なのが電磁バルブです。一般的な電磁バルブの場合耐圧性能に関わらず長期間の使用による磨耗が原因で必ずと言っていいほどガス漏れが生じる事に注意しなければいけません。この漏れは微量ですがppmレベルの精密測定を行うのだからその影響は無視できず、定期的な漏れチェックが必要です(とても面倒ですが)。著者もあるとき原因不明のドリフトが出て悩んだことがありますが、この原因が電磁バルブの漏れでした。消耗品と考えた方が良さそうです。特に校正ガスに直接つながる電磁バルブは比較的高圧(と言っても2kg/cm2以下ですが)なので注意しましょう。メーカーは事実上CKDしかありません。(2wayと3wayの手動バルブでいいのがないか探していますが、見つからないのです。ご存じの方いらっしゃったらメール下さい。)

追記2002年5月10日
SMC社が良いの出してきています。現在テスト中ですが、CKDと同等の品質です。販売ネットワークの違いから、入手はこちらの方が楽なのでぼちぼち切り替えていく予定です。電磁流量計は液晶表示器付きのモデルが存在します。一見の価値有り。

 電磁バルブで次に注意するのが、”鳴き”です。気にならない方にとってはどうでもいいようですが、長時間実験室で作業するときなどは、動作不良ではないのですが、”ジーーーー”とひっきりなしに鳴いているのを聞き続けるのは苦痛です。自動制御システムを構築してしまうと、居眠りしてしまうくらい暇な作業になることもありますが、バルブの動作の度に鳴いたり鳴かなかったりを聞いていると不安になって仕方がありませんでした。この”鳴き”はAC電源駆動の電磁バルブ特有の現象のようです。著者はバルブ寿命の延命も兼ねて、DC駆動の電磁バルブに変更したところ全く鳴かなくなり、快適に実験ができるようになりました。ただし、ACアダプターを別途準備しなければなりません。OMRONなどのブランドものでも高くはありませんのでDC仕様への変更はお奨めです。

追記2002年5月10日
OMRONって高い方ですね。最近気が付きました。ただし、高いだけのことはありノイズが乗ることは殆どありません。


7. 流量計について
 著者は以前、流量コントロールにためにニードルバルブ、流量計にはフロート式(浮子式)流量計を使っていました。もちろんサンプルガスの流量などはある程度の変動があっても問題ないのでこれで十分なのですが、コストを考えてみるとマスフローコントローラーとあまり変わらないように思えます。ニードルバルブとフロート式流量計の合計が約10万円程度しますから、マスフローコントローラーの約半額です。しかし、流量調節の手間、取り付けの自由度を考えたとき、この差額は埋まるようにも思います。その反面電源が必要ですから全体の消費電力を押さえたいときにはよく考えなければなりません。代表例はSTEC社でしょうか。

追記2002年5月10日
ここ2年ほどSTECは使用していません。九州エリアのサポートが最悪でした。(地域で差があるとは思います。)
同じ価格で精度が上で、サポートがまともな日立金属を指定しています。同社デジタルマスフローコントローラはPC制御できて遊べます。平衡器に異なる濃度のガスを任意に流すガス混合器(買うと200万円以上)なんかが60万円位(デジマス2台分)で簡単に作れます。


8. 減圧弁、ポンプについて
 減圧弁(ボンベに直接装着するタイプ)は、接ガス部がオールステンレスやテフロンの高級品から、良くわからないメーカーのものまで様々ですが、ゴミ捨て場から拾ったものも含めていろいろ使ってみた印象は、どれでも良いように思えてきました。どうやら動作不良が起きそうにない機構のようです。新品ならなおさらです。安心して自由に選択しましょう。

追記2002年5月10日
ただし、2段減圧タイプを選びましょう。1段減圧では長期間の2次圧力安定性が問題です。オートキャリブレーションするシステムでは無人観測になりますが、その際困ります。
 
 ポンプについては、通常ダイアフラムポンプが使用されています。採気口のフィルターのつまりなどで吸引に支障をきたさない程度の能力を持つポンプを選択しましょう。ホームセンターに売ってある金魚鉢ポンプを改造して使ったことがありますが、全く問題は有りませんでした。騒音とコスト(交換用ダイアフラムの値段でフルセット買うことができます)の面では金魚鉢ポンプに軍配があがります。なにせ動いているのかどうかが音で判別できないくらい静かです。

追記2002年5月10日
渦相関システムでは金魚鉢ポンプでは限界があります。(10リットル出ない)観念して理化学用、工業用を使用しています。


9. 圧力計
 圧力制御を行うと言うより、単に確認することの方が多いのですが、先に出てきたPISCO社がデジタル表示のインライン圧力計を出しています。設定圧力でアラーム表示できる所が便利です。


10. 測定システムの一例
 ここまで記述した事項のまとめとして、図3に最も基本的な大気CO2濃度測定システム配管の一例を示します。

図3 大気CO2濃度測定システム配管の一例

電磁バルブの制御をデバイスを装着したパソコンやタイマーなどで行えば自動校正が可能になり、連続無人観測が実現できます。

追記2002年5月10日
最近NST社入出力コントロールユニットIN OUT-16という機種をよく使います。USBで電磁弁コントロールできるので使いやすいです。

この配管で実施した大気中CO2濃度の日変動を図4に示します。観測は95年11月9日00:00〜11月9日24:00に九大春日キャンパスで計測した時のものです。採気口は学内駐車場の地上10m地点に設置していましたから、排ガスの直撃を受けてしまっています。8時にピークが見られますが、この近辺の交通渋滞の時間帯に応じています。18時頃からのピークは24時までずっと続いていますが、この日は北風が吹いていたので都市(天神)から移流してきた空気が原因だと思われます。

図4 大気中CO2濃度の日変動


11. 海水中の二酸化炭素濃度測定器の相互比較
 海水中のCO2濃度(以下pCO2)の観測は1950年代(Levine et al. 1956 ; Takahashi 1961)から始まっています。そして現在までに様々なpCO2測定器が開発されてきました。ところがその測定精度は不思議と検定されたことはありません。それはpCO2値が既知の海水サンプルが存在しないからです。そこで最近では精度保証を多数決で決める方向にある次第です。原理の異なる測定器を集め、同じサンプルを同じ時刻に計測し、指示値が一致したならばその値を真値としています。実際には全く同じ値は示さないので、真値の範囲を決定ものです。日本でも1995年6月北海道大学で行われたのを始めに、1998年1月にも茨城県波崎町で実施されています。

 著者も自作の測定器を持ち込み、この相互比較に参加する機会を得ました。7種類もの機器が集まると設計思想の違いが良く分かり楽しいものです。絶対精度を追求したもの、小型軽量を追求したもの、無調整で長時間の運転を追求したものなど様々で、一種の品評会です。著者も含めた制作者は質問されるのがうれしくて、つい説明には力が入ります。このイベントで感じたことは、最先端の機器をもってしても+-3ppm程度の誤差は認めざるを得ないということでした。この値は世界中で行われてきた相互比較の中ではおそらく最良のものですが、その反面1ppmの誤差は全球規模での海洋へのCO2フラックス見積もりの際には約0.3Gt/yearもの誤差に相当します。海洋フラックスの見積もりは2.22Gt/year, Keering. 1989 ; 0.60Gt/year, Tans. 1990. と見積もられていることを考えるとこの誤差は決して小さくはありません。これからも改良の余地があり、また計測手法が確立されていないパラメーターは現代においてCO2くらいしか見あたらないとも言えます。各分野からアイデアを出し合って楽しむには最適な分野ではないかと思いますが、いかがでしょう?


12. 気液平衡器について
 海水中のCO2は直接測定できないのが現状です。そこで、気液平衡器(海水ーガス間におけるCO2に関する物質交換を効率よく行う装置)が各種設計されています。先に述べたようにこの装置は発展途上にあり、様々なものが試作されていて、著者もその一つを試作しました。参考までに図4に4連バブル式気液平衡器を紹介します。
 このときの設計条件は高精度連続計測ができる欲張りなものとしました。24L/minの海水が水中ポンプで汲み上げられ、はじめ2分岐、さらに2分岐され、4つあるシリンダーにそれぞれ旋回流になって流れ込みます。シリンダーは水槽中に中立に固定されていて下端は解放されているのでシリンダー内の水位と水槽のオーバーフローは一致して保たれるようになっています。左端から順に第1、第2、第3、第4シリンダーと呼び、第1シリンダーにはポンプによって一般大気が導入されます。大気はバブラーにより細かい気泡になり、約40cm水中を漂い上部のヘッドスペースにたどり着き、弾けます。(※金融バブルの説明ではありません。)ヘッドスペースの空気はまたもやポンプによって第2シリンダーのバブラーへと導かれこの行程を第4シリンダーまで合計4回繰り返します。最終的に海水中のCO2とバブリングされた空気はCO2の分圧に関して気液平衡状態になり、除湿後NDIRに流すことで海水中のCO2濃度が計測できる仕組みです。

図5 4連バブル式気液平衡器

 図6に97年8月23〜24日に新潟県大潟町にある京都大学大潟波浪観測所の桟橋先端で岡山大学の大滝教授らと共に観測した海水中CO2濃度の観測結果を示します。この様なデータを使って、海洋がどれくらいCO2を吸収するのか(フラックス)を推測するのです。

 図6 海水中CO2濃度の観測結果

 簡単な内容でしたが、何かの役に立てましたでしょうか? もっともここで扱ったテーマは非常にマイナーで役に立つ可能性は非常に低いのですが、その少ない人々に著者も入ります。著者は現在、ここで述べたような経験を基に会社組織の民間人になりました。今後もこの分野(地球環境問題)の発展につながる活動に取り組んでいきます。現在はここで述べた気液平衡器の小型なものを開発・商品化しているところです。


13. 環境問題について(雑感)
 環境問題の一つである地球温暖化現象に関する研究を実施していますが、その間、数多くの研究者に出会い、会話する事ができたことは著者にとって重要な意味を持ちます。この分野では、世代や派閥は関係なく協力できる大らかな雰囲気が感じられたからです。おそらくは未解明なことが多すぎて何をやっても成果になる事がその理由だとも考えられます。解明が進んだ分野では重箱の隅をつつきまわす研究が盛んになりますので、こういう雰囲気はないのかもしれません。また研究のための研究ではなく、環境問題という現状では漠然とではありますが、人種も国境も関係ない共通の問題意識の存在がこの協力的な雰囲気作りに貢献しているとも思います。
 ここで言う環境問題はそれをガイアの問題として捉えるか、人間自身の問題として捉えるかの大ききく2つの捉え方が考えられますが、著者の知る限りでは後者の認識をする人の方が圧倒的に多いと感じますし、またその方が自然な感じも受けます。その認識は歴史的にもこれまで何度も繰り返されてきたようです。問題を解決するとその手段が原因でまた問題が生じ、また解決する・・・の繰り返しですが、止まることなくチャレンジしていくしかないのでしょう。

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